黄昏の刻 第17話 |
「まさか 抵抗しないとはね」 無抵抗のまま投降した二人に対し、予想外だよと驚きながらシュナイゼルが近づいてきた。もしかしたらこれは罠で、シュナイゼルをスザクが拘束し、ルルーシュが逃げるための道を作る可能性もあるが、建物に向かって銃火器を構えている兵がいる以上、無茶なことはしないだろう。 ルルーシュがここに居ないということは、まだ建物のどこかにいるということ。 この騎士が、万が一にも流れ弾が主に向かうような愚を犯すとは思えない。 同じ危険を犯すなら、銃弾を交わせる身体能力を持つスザクが、ルルーシュを担いで、こちらが到着する前にここを立ち去るほうを選ぶだろう。 枢木スザクとは、そういう男だ。 その選択をしたところで既に逃げ道は塞いでいるが、主を置いて二人が無抵抗なまま投降するというのは想定していなかった。絶対に見つからない自信があるのだろうか?各種センサーでも理解らない隠れ方が?ルルーシュの考えが解らないがまあいい。答えはすぐに理解るだろう。 ロイヤルスマイルを浮かべるシュナイゼルを苛立たしげに睨みつけるスザクを横目に、C.C.は家の方へと視線を向けた。既に家の中にはシュナイゼルの私兵とカノンが入り込み、ルルーシュが隠れられそうな場所を虱潰しに調べているところだ。何やら重そうな機材まで運び込んでご苦労なことだなと息を吐いた。 いくら探した所で何もではしない。 ルルーシュもまた二人の傍に立ち、凪いだ視線で兄を見ているのだから。 「ルルーシュは死んだ。ここにいるのは私とこいつだけ。調べたところで時間の無駄だ、お前の望むものなど何も無い」 「さて、それはどうかな」 「シュナイゼル様」 家の中から駆け出してきたカノンの手には、あの手紙。 C.Cは視線だけでそれを確認したが、表情は一切変えなかった。 「やはりあったね。これがあの子がいる証拠だよ魔女殿」 いつもの白い封筒に、シンプルな文字で打たれたブリタニア総督府の住所。そして裏には匿名を示すAnonymous。 キラキラと瞳を輝かせ、嬉しそうに手紙を見るシュナイゼルは、まるで宝物を見つけた幼い子供のようにも見えた。あの手紙がこいつを引き寄せたのか、だからやめておけといったのに。と思うが、今更過去のことに文句を言っても仕方がない。 「それは証拠になどならないさ」 「これだけの内容、魔女殿には書くことは出来ない」 「書けるさ。私は魔女C.C.。死者が残した思いを書き記すことなど造作も無い」 不老不死の魔女を舐めるなよ。 だが、シュナイゼルはC.C.の言葉など聞こえていないのか、早速ルルーシュが残した手紙を開き、中を確認する。そして楽しげに目を細めた。 だが、シュナイゼルが笑顔だったのはそこまでだった。 カノンから、ここで生活いている痕跡はC.C.のものしか無いこと、そしてスザクの分が増えた程度で、ルルーシュの痕跡が見つからないという報告を聞き、C.C.とスザクを私兵に任せ、カノンとともに家の中へと入っていった。 いくら探した所で、髪の毛どころか指紋一つ見つからないだろう。 ルルーシュは、実態のない幽霊なのだから。 スザクが不安げにC.C.をチラチラとみてくるが、それはルルーシュがここにいるのかどうかを確認するためだとはわかっている。またパニックを起こす可能性があるこの男を落ち着かせるために、視線だけルルーシュのいる方へ向けると、それに気がついたスザクは安堵したように表情を和らげた。 あの家は、マオの形見だったが、今頃監視カメラや盗聴器が仕掛けられていることだろう。もう住むことは出来ないなと嘆息する。新たな住処を見つけなければ・・・シュナイゼルたちから逃げ切って、監視されない安全な場所を見つけて、またのんびりと暮らそう。なに、不死の魔女と魔王の悪霊には時間がたっぷりとあるから、何も問題はない。病んでる仮面の騎士のことなど、私の知ったことではないからな。 解放されるまでどれだけかかるかは解らないが、暇だなと空を見上げると、夕暮れが迫ってきているのが判った。 「・・・そういえば、聞いていなかったな」 ふと、思いついたことを口にした。 スザクは視線をC.C.に向け、側にいた私兵もC.C.が帽子とサングラスを掛けて顔を隠している男に向けて話していると思ったのか、ちらりと視線を向けてきた。 「お前には、なにか夢があるのか?」 「・・・夢?」 答えたのはスザクだが、C.C.はじろりとスザクを睨むことで、お前じゃないと訴えた。 スザクは不愉快そうに口をつぐみ、嘆息する。 「俺に聞いたのか」 他に誰がいると言いたげにC.C.は「そうだ」と口にした。 「夢なら全て叶えた」 「叶えていない 夢もあるかもしれない。それこそ、本当に夢と呼べるようなものが。この状況の原因がなにせ全くわからないからな、何かやりたかったことや、願っていたことがあった可能性はないのか?」 成仏できない幽霊は、生前にやり残したことがあり、それに囚われているという。 ならば、ルルーシュにもそれがあるのかもしれない。 それが解消されれば成仏してしまうのだろうが、こんな風に裏切りの騎士や腹黒皇子にまとわりつかれるぐらいなら、ルルーシュをちゃんと成仏させたほうがいいのではないか?と思ったのだ。 永遠にともにいる道もあるが、不安定なルルーシュがいつまで正気を保っていられるかもわからない。 それこそ、本当に自我を亡くした悪霊になる危険だってある。 ルルーシュがルルーシュであるうちに、終わりを与えるべきかもしれない。 「別にないが・・・そうだな」 強いて言うなら。 まだ生きていた時にふと、思い浮かんだことがあると、ぽつりと口にしたルルーシュに、一瞬目をパチクリとさせたC.C.は、その後、ああ、そういうことかと盛大に笑った。 「・・・くくくくく、アハハハハハハ!なるほどな。ああ、納得した。そうか、そういうことか。ああ、理解ったぞ。私には全部わかった。そうかそうか、これ以上ない理由だなそれは。アハハハハハ」 「ちょ、C.C.!?」 突然狂った様に笑い出し、一人納得したように楽しげに話しだしたC.C.に、スザクは慌てた。その声を聞き、シュナイゼルたちは家の外へ慌てて出てきた。 「そうかそうか。その考えには私は至らなかった。これでは魔女失格だな。いいぞ、叶えてやろうその願い。私が、全ての条件を整えてやる。ああ、任せておけ」 誰もいない場所に向かい、気が狂ったように笑いながら話すその姿はまさに魔女。 ルルーシュが居ることを知らないものから見れば異様すぎる光景だ。 「だから、さっさとお前はあちらにいけ。もう十分だ」 「C.C.、何を!」 ルルーシュに何を言っているんだ。 スザクは顔色を無くし、C.C.に怒鳴りつけたが、魔女はそんな事気にもしなかった。 「短い間だったが、楽しかったぞ?」 「C.C.!」 誰もいない、何もない場所に向かいC.C.は別れの言葉を告げた。 気が狂ったのではないか。多くのものがそう思った。 だが、C.C.の視線の先に、僅かな変化が起こり始めた。 太陽が沈み、薄暗闇に覆われ、人の顔が判別できなくなるその時に、ゆらりと白い影が揺れ動いたのだ。 その影は人の姿を型取り、静かにそこに立っていた。 薄っすらと向こうが透けている白い姿。 顔はわからない。 だが、その衣装、その立ち姿で誰かなんてすぐ判った。 日没直後の、薄暗い空の下、禍時に入るその直前。 黄昏時のこの薄闇は、神の坐す場所、黄昏の間と同じく生者と死者の邂逅の時。 回りにいた者達は、瞬きをすることさえ忘れ、その光景に見入っていた。 「さようなら、ルルーシュ」 影は嬉しそうに口元に弧を描いた後、闇に溶けるように姿を消した。 |